AFFIXTUER
■インカ・アステカ帝国帝都王宮
「おぎゃー、おぎゃー」
元気な赤ん坊の泣き声が王宮に響く。
その声は多くの王宮内の人々に微笑みをもたらしていく。
そして何十年かぶりに子供を得た男にも色々な感情を呼び起こしていた。
「おじいさま、どうやら無事産まれたみたいですね」
アルベルト二世は先ほど渡した書類に目を通すアルベルト帝を見た。
見終わった書類にサインしてからアルベルト帝はうなずく。
「ティティウさんも産み月くらい休んでくれればいいのに」
二世は陣痛が始まったティティウを医務室に運び込む時の一騒ぎを思い出して、ひどく慌てさせられたことに憤慨しながら話す。
「ああ、そうだな。だがあいつはこうと決めたら意外に頑固だからな」
そんな孫を見て苦笑しながらすこし穏やかな目をするアルベルト帝。
なんとなくその和らいだ雰囲気を感じて二世は微笑んだ。
「やっぱり新しい命が生まれるというのは良いものですね」
「んっ？お前も子供が欲しくなったのか。だったらまずは結婚相手を見つけないといかんな」
笑いながら言うアルベルト帝に二世はまだ早いですよと顔を赤くして反論する。
とその時ノックの音が部屋に響いた。どうやらティティウの伝言を侍女が持ってきたらしい。
皇帝が入室の許可を出すと産まれたのは女子である事、先ほどの騒ぎの謝罪としばらくの休暇願いだった。
「そうか女の子か…」
「きっとカワイイのでしょうね。そうだ。お祝いに行きませんかおじいさま？」
二世はひさしぶりに穏やかな祖父の気持ちが続けばとやんわりと諌めるアルベルト帝をむりやり執務室から連れ出した。
「おいおい」
「赤ちゃんって王宮にいるとなかなか会えないですしいいじゃないですか！」
医務室にはワイワイと騒がしい人だかりが出来ていた。
パンドラ戦線より３年、かの戦争を共にくぐり抜けた王宮の面々は仲が良かったのでやはりティティウへお祝いに来ていたようだ。
「皇帝陛下！」
さすがにアルベルト帝を見付けると静かに道をあけた。
「でも赤ちゃんが生まれたってのに見に来もしない父親なんてのう」
そう産婆さんの言った時に現れた皇帝陛下を見てティティウはすこしキョトンとしたがすぐに笑いだした。
「そっ、そうね。ひどい男かもしれないかもね。あはははっは・・・」
何がおかしいのか分からずみんな不思議そうに顔を見合わせた。
「ゴメンなさい。でも良いのよ。あの人はいつでも太陽の様にあたし達を見守ってくれているから」
笑い終えてそう締めくくる彼女にこの話しはここまでと言う感じになる。
ただアルベルト帝は父親に憤りを感じたのか微妙に複雑な顔をしていたが誰も気づかなかった。
落ち着いたところでお祝いを言った二世はふと一つ気になった。
「そういえばその子はなんて名付けるんですか？」
ティティウは娘にやさしい目を送った後、二世とアルベルト帝の方を見る。
「アルティナです」
良い名ですねと言葉を送る二世を見ているティティウは少し物思いに沈む。
（そう、アルティナ…。あたしとあの人の名を紡いだ名前。あの子があたしとあの人が絆を結んだ証…）
とその時、アルベルト帝がティティウの前に出て肩に手を乗せた。
「無事に良い子が生まれて良かった。しばらくはゆっくりと休んでくれ。しばらくして落ち付いたらまたよろしく頼むぞ」
ティティウは顔を上げてアルベルト帝の目を誰も気づかないほどのほんのひと時だけ見つめて笑顔を返した。
「はい、その時はまたよろしくお願いします」
アルベルト帝は産後なのだから休ませてやれとみんなを解散させると執務室へ二世と共に戻り始める。
「我らはあのような新しい命を育み、そして護っていくのが仕事だ」
パンドラ戦線で失われていった多くの命を見てきた二世はその言葉をかみ締めて力強くうなずく。
「さあ、しっかり頼むぞ」
孫の背中を叩いて気合を入れるといつもの様な厳格な為政者の顔に戻ったアルベルト帝はインカ・アステカ帝国を支える仕事へと戻っていった。
■キャスティングリスト
アルベルト・『ソル』・メンデス（ＮＰＣ） 男/64歳/174cm/56kg
インカ・アステカ帝国を治める皇帝。
アルベルト二世（ＮＰＣ） 男/?歳/?cm/?kg
インカ皇帝の孫。
ティティウ・ルトカエ 女/25歳/148cm/40kg
風の魔法と神殿の舞を得意とする太陽神殿に仕える巫女兼神官戦士だったがパンドラ戦線後、皇帝の付き人となる。
色々な想いの中で子供を授かり無事に出産。アルベルト帝が死去後は王宮を出て、田舎で太陽神殿の教えを伝えることになる。
子供の父親の名についてはけっして語ることはなかった。