AFFIXTUER
■2583年2月 ケイプヘイシャン
「ふん、所詮はクズの娘か…」
つい今しがた受けた部下からの報告にはエストーラに送った駒の失策が書かれていた。
眼光の鋭い老人はイスに座りこんで深く考える。
「船か…ふむ…ここはブリューナを送るとするか…」
そうしてまたひとつ駒がエストーラに送られる事になったのだ…。
＊ ＊ ＊
■2583年同2月 キーウェストの造船ドック
次期主力戦艦を建造する為の試験艦の調整ドック内は喧騒に包まれていた。
急ピッチで前回のテストデータを元にした改造が試験艦に施されているのだ。
その改造の指揮を取る人物は試験艦の小型帆船前にいる。
「貴様！新形状の水中翼がまだ出来てないだと？」
２ｍはある大男を声高に詰問するのは…、どうみても１４０cmぐらいの少年に見えた。
黒いマントとベレー帽で飾ったその少年の顔は尊大な表情を浮かべ、大の大人を見下していた。
「ふん、オレ様の計算なら貴様の能力でも問題無い工期だったはずなのだぞ？」
大男は子供に怒鳴られているにも関わらず非常に恐縮していた。
彼の上司の少年がまったく正しい事を言っているのが判っているからだ。
何と言われるのか予測がつくが正直に作業中に事故が発生した事が原因だったと報告する。
「…無能な貴様たちではしかたないのだ。まあ良いのだ。その状況ならば２日後だぞ？」
こちらで計算した通りの答えを瞬時で叩き出し命令してくる少年に感嘆の念を抱きながら、
大男は返事をしてから素早く作業に戻る。こうまで言われても素直に従うのは態度はともかく
仕事については完璧で公正で仕事を正当に評価してくれる上司の元で働ける事に非常にやりがいを感じているからだった。
かけていく大男を見ながら少年はめったにしない名残惜しそうな表情を浮かべた。
「…残念なのだ。最後に改良の成果を見たかったのだが…。」
ポケットから取り出した実家からの迅速なエストーラへの派遣命令を見る。
「まあ良い、あちらにはゾディアック・シリーズという魔導船があるそうだしな。勉強してこいつに組み込んでやるのだ。」
目の前の試験艦は少年の夢の一歩。世界最強の戦艦を作る夢の一歩になる存在だった。
だが一瞬うかんだ年相応の笑顔をすぐに少年は引き締める。
「ふん、だがオレ様はシュレイム家の繁栄と存続の為に生まれたモノだ。あちらで当主アーサーが死にかけてると言うなら是が非でも行かねばならん。」
徹夜で仕上げた１年分の改良スケジュールと作業指示書をポンと机において、少年は誰にも声をかけること無く試験艦のドックを出ていった。
＊ ＊ ＊
■キャスティングリスト
ブリューナ・アルフェルム／男？／15歳／138cm／36kg
シュレイム家に忠誠を誓う家に生まれた優秀な軍事兵器デザイナー。
世界最強の戦艦を作る夢のためカリブ海軍の高速戦艦改良プロジェクトに参加し指揮していたが、
シュレイム家当主アーサーが大変な状況ということでエストーラに飛ぶことになる。
艦船整備技術者としてだけで無くある命令を受けてアーサーの下へ旅だった。