AFFIXTUER
■2582年10月 王城前広場
帝都近辺に、オルクスの部族が出没しています。討伐隊に参加してくださる方を探しております。
＜宰相メル・フィッシャー＞
今アスターはこんな立て札が城の前の広場に立ち並ぶご時世になっちまった。突如現れたダークフォースに対する為って訳で国のお偉方は色々な仕事を下々に分け与えて下さるってわけだ。まっ手先が器用なだけのオレに出来る仕事などは無いからどうでもいいがな。それならオレがここになんでいるかってえと、立て札前でボーと立ってるやつらの懐からちぃーとばかしの金を恵んでもらう為だ。魔族なんぞ相手にしにいくバカが持っててもどうせ役立つことも無いだろうからオレがちょいと有効に使ってやろうってやつだ。今日もいつもの様に立て札をアホヅラで眺めるバカどもを見回す。カモっぽい奴らを見つけたんで早速仕事と思えば、獲物がトラブルを起こした様なのでちょっと様子を見ることにした。
「おい、あぶねぇじゃねぇかよ！？」
２０前半の若造が１４、５の少女に怒鳴っている。どうやら少女の持つ抜き身の長剣が彼をかすったと言い張っている。少女は立て札から目線だけはずして若造を見る。
「ごめんなさいなの。」
その目には何の感情も浮かんでおらずまるで生きてないみたいだ。そんな瞳をして無表情で謝っても誠意ってもんが感じられる訳はない。相手は納得しないぜとオレは思ったね。思った通り若造が顔をさらに赤くして文句を言ってる。だが少女はまったく動じていないようだ。その時にオレは少女のとがった耳に気づいた。そしてその褐色の肌にも。そうかダークエルフだ。なるほどあの冷静さはダークエルフの冷血野郎だからか…。オレはダークエルフの噂を思い出して納得したが若造はそんなことに気づきもしない。いや知らないのかもな。加えて少女が「なぜそんなに怒っているの？」なんて聞くからもうえらい剣幕で沸騰直前だ。オレは少女が、ではなく若造を哀れに思って助け船を出してやろうか思いだしていた。だが若造の仲間らしいのが耳打ちすると若造は舌打ちしてそそくさと去っていった。喧嘩にでもなったら少女とは言えダークエルフだ。あいつはただでは済まなかっただろうな。まっ、そんなことでも耳打ちされたんだろう。オレは事件の結末に納得しながら何か忘れているような気がしていた。ハタと気づけばオレは獲物を逃しているじゃないか！？オレはなんてオマヌケなことをしたもんだ。まったくちょっとした見世物にしては高すぎる代金だぜぇ。オレがやり場のない怒りを抱えていると、原因を作った少女が目に入った。彼女はどうやら宰相のオルクス討伐の立て札の募集要項を熱心に見ているようだ。
「マスターのお仕事なの。これにするの。」
少女はそうつぶやくと立ち去っていった。結局オレはダークエルフはウワサ通りの無感情な連中だと酒のツマミに話す事にして、とっとと次の獲物を探すことにした。
＊ ＊ ＊
先ほどの出来事を思い出して少女は考えていた。少女はリュティアと言う。相手に迷惑をかけたらしいのでマスターに教えられたとおりに謝ったのに相手は一層怒ったようだった。理由を聞いてもさらに顔を赤くして怒るだけで説明してはくれなかった。
「リュティアに分からないのはあれが感情的な事だからなの。」
少女は感情について理解できない。彼女には感情が無いから。ダークエルフの一部の者に出る能力。精神攻撃が効かないという能力の副作用ともいえる。だから彼女は理解できないことは感情的な行動だと認識していた。前のマスターの時は人の感情など理解できないのままで良かった。いや道具として命令に従う事が第一でそんな事を考えるのは禁じられていた。だが今のマスターは考えて相手を思いやる事を命令いやお願いした。だからその為にも彼女は感情についても理解できなくても知ることを必要としていた。しかし感情無き自分ではどうやっても分かるハズがない。感情を持つ相手が教えてくれなければ分かりようが無い。リュティアはこれ以上考えても無駄と結論して忘れることにする。かわりにこれから行くオルクス討伐隊のメンバーに色々聞いてみよう。誰か一人ぐらいは答えてくれるかもしれない。そう期待する事にして足早に広場を立ち去った。
＊ ＊ ＊
■キャスティングリスト
リュティア・ダルフェン／女／14歳／152cm／38㎏
盗賊団にさらわれて心無き道具として育った過去を持つ。現在は「自分の意思で行動する」という命令を達成すべく社会勉強を開始。
スリのおっさん／男／37歳／164cm／60㎏
王城前広場を狩場にするスリ。でも王城前でスリをするからにはそれなりの凄腕なんだろう。
傭兵志願の若造／男／22歳／178cm／68㎏
傭兵募集のウワサにひかれてやってきた一般人傭兵。血気盛んでリュティアにからむ。