AFFIXTUER
■2579年10月 アスター帝国レッドレイジ近隣
夜のとばりが降りた森の中、傭兵隊「暁の黒十字」の隊長『月龍・葉』と副隊長『アリス・ゾディアック』は護衛していた隊商を襲ってきた山賊団と戦っていた。いたるところで剣戟や破壊音があがる中、アリスは目の前に小柄な影を捕らえて、手にした刀を振る！だが敵は軽やかなバックステップで剣戟を避けると身を翻した。
「そっちへ行ったわよ。月龍！」
その声に月龍は研ぎ澄ました感覚で自分の方へ駆けて来る敵を捕らえると、先手必勝とばかりに七星剣を構えて突進する！
（もらいましたわ!!）
だが七星剣は敵との間に不意に現れた醜悪な形の炎を散らせただけだった。
「そんな！？」
月龍は七星剣を振り炎の残滓を払いながら、炎で見失った相手を探す…。
（！？）
突如として激しい悪寒を感じた月龍が防御の構えをとるやいなや足元に飛び込んできた影が下あごめがけておそろしく伸び上がる蹴りを放つ！直前とは言え身構えていたおかげでその攻撃を月龍はしのぎきる。だが姿勢がくずれカウンターを入れれず、いったん距離を取る事になった。敵も息でも整えているのか静かに立ったままでいる。相手の顔さえ見えない暗闇の中で静かな対峙が数瞬…。そこにアリスがやってきた。
「けっこうやりますわね…」
気づかない間にかいた手の平の汗を拭いながら月龍が呟く。
「くやしいけど私と同じくらいの剣の腕前だよ」
カチャリと刀を握りなおしながら月龍にならぶアリス。
「どうするの月龍？」
剣聖を目指すだけあってアリスの剣の腕前の目利きは月龍も信用していた。二人で比べると個人戦闘ではアリスの剣技の方がすこし上。敵はそれと同じレベルの腕前…。それだけなら何とでもなるが格闘技にも優れ、火炎魔術まで使う様でやっかいな敵だった。アリスは剣と腕力で、月龍は剣と優れた感覚でなんとか渡り合えているがこのままでは決め手にかける。
「…ネコ化はどうしたんですの？」
「ネコじゃないって言ってるでしょう！！！」
緊張を解そうとか軽口を叩く月龍にアリスが状況を忘れて怒ってすぐに怒鳴り返す。
「ハァ………。この前、月龍が「一回だけだからお願いですわ～」って結局何回も使ったから今は月光石が品切れだよ…。 それに今日は新月だし…」
がっくりと肩を落としたアリスがちらりと目を夜空に向けても天空に光る月は見えない。ため息をついてから、ジト目で月龍を見るアリス。だが月龍の顔はあさっての方向を向くばかり…。しばらく二人の間にいやぁ～な雰囲気が流れた。だがついにアリスの責めの視線に耐えられなくなったのか月龍が先に動きだした。
「オーホッホッホッホッホーーーーー！ わたくし達『暁の黒十字』に逆らった者の末路が死！のみであることを教えてさしあげますわ！！！」
一般人なら見ただけで逃げ出したくなるような高圧的な高笑いを上げて突進する月龍。これでも戦いの中では精神的な駆け引きの一つとして有効な手である。ましてや技量が拮抗してる時はちょっとした気のゆるみが敗北につながったりするからだ。月龍に続いてアリスも走りだす。くやしいけど２人がかりでないと負けもしないだろうが楽に勝てもしそうになかった。動き出した二人を見て、敵もその身の回りに炎の影を立ち上らせて臨戦体勢になる。そしてその炎に照らしだされたのは二人よりも５，６は年下の少女だった…。
敵が少女だった事に気付いた月龍の動きが一瞬止まりかけたが、少女の温もりのない瞳を見たとき迷いを捨てて一気に加速する。
（迷っていても楽に勝てる相手じゃないですわ！）
アリスも敵が少女だった事に驚きを隠せないようだったが、月龍が加速したのを見て戦いの中で迷いは禁物と自分の相棒を信じ月龍に並んで駆ける。あと１０歩という所で少女のまわりに立ち上った炎が人型に集まり月龍とアリスに踊りかかった。だが二人は集中し炎の動きを見極めギリギリで左右に分かれて回避した。そのまま二人は炎の灯りを失い再び闇に沈んだ少女に左右から同時に仕掛けようとした。しかし少女はすでにアリスの前に移動して力をこめた剣をブン！と音鳴りをさせて上段より振りおろす。正面から受けたら刀と長剣では分が悪いと瞬時に判断してアリスは刀で相手の剣を受け流してそのまま斬りつける。と同時に月龍がアリスと反対側から七星剣を突きいれる。
（これで決まりよ！）
（今度こそもらいましたわ！）
二人が同時に勝利を確信した時、少女は予測を超える行動に出た。月龍の七星剣の刀身を素足で蹴り上げて、アリスの刀を防具もつけていない左腕で受けたのだ。当然、足と左腕が切り裂かれて血飛沫があがる。が振り切る前に受け止められた七星剣と刀は致命傷を与える事はできなかった。
「うそでしょ！」
普通は傷つく事に躊躇してこんな防御は出来ない。あまりに正気を疑う行動に二人が驚きの声を上げた時、甲高い笛の音が森に鳴り響いた。すると少女は手足から鮮血を飛び散らせつつ深い闇に飛び込んで消えていった。月龍もアリスも多少あっけに取られながら少女が戻ってこないと確信するまで立ち尽くしていた。
「どうやら行ってしまったみたいですわね」
月龍がなぜか勝利宣言さながらに胸を張りながらアリスを見る。
「ふぅ、まだまだ強い奴はいるってことだよね？」
アリスは愛刀をさやに収めつつ月龍を見る。二人はお互いを見てすこし微笑むと振り返る。
「さぁ、悪党も追い払ったし皆の所へもどりますわよ。アリス」
「そうね。早くもどろう月龍。みんな心配してるかも？」
そうして二人は一つの仕事を終えた充実感を味わいながら仲間の元へ駆け出した…。
■キャスティングリスト
アリス・ゾディアック／女／19歳／ワーウルフ／180㎝／60㎏
『漆黒の征旗』の『暁ノ黒十字団』の副団長。
ユエルン・イブ（葉 月龍）／女／人間／23歳
傭兵隊『暁の黒十字』隊長
謎の少女／女／？／14歳
山賊団の戦闘員？
■おまけ
ムンスパでの交流誌「暁の黒十字」の作成されていたお二人へ感謝のプラリア
発掘されたのでちょっと直して掲載。謎の少女は正体バレバレですな（笑）