AFFIXTUER
■これまでのあらすじ
「皇女の血杯」事件で次期当主であったルドイール・テンオレン（ＮＰＣ）を殺されたテンオレン伯爵家。
現当主ライゼンス（ＮＰＣ）は古参貴族よりもアシュタール教団を選んだジュリアーヌ皇女を憎悪する。
復讐を誓ったライゼンスは同様の思いである貴族達を焚きつける一方である考えを実行しようとしていた…。
■聖暦８０１年、帝都・黒百合屋敷
「お父様、お呼びでしょうか？ナルリィーナです。」
部屋に入るとお父様と大柄な男が並んでいました。
「それが報酬だ。」
私を一瞥するとお父様は男に向かって言葉をかける。一体なにを話しているのかしら？
「…ほう？なかなか…見目が良いではないか。まあ仕事を受けるかは否かは前払分次第じゃがの。」
壮年といった感じの男は姿に似合わない年老いた喋り方をしながら私を見つめている…？
「すぐに払ってやるとも。」
父様も私を見つめている。その目は兄が死んでから鋭くギラついて見えて私は好きになれません。
「ナルリィーナよ。当主として命令する…。今からこの男に抱かれろ。」
「………！？、お父様、今…何と…言われたのでしょうか…？」
信じる事の出来ない言葉………私の耳は壊れてしまったの？
「何度も言わせるな。この男に抱かれてこい。」
ですがお父様の口から出た言葉は変わりありませんでした。
男はニヤリと笑いながら特に動く様子もなく私とお父様の様子を眺めています。
「そんな…見ず知らずの人間相手に娼婦のようなマネをしろと…、何故でしょうか？」
思わず取り乱してお父様に詰め寄りましたが、私を見つめる目の冷たさに思わず後ろに下がってしまいました。
「おまえの兄を殺したヤツに復讐する為だ。建国以前より皇帝に忠義をささげてきた我らをないがしろにして、
あまつさえルドイールの命まで奪うとは…殺して当然だろう？その男はな、その道では凄腕なのだよ。
だがな報酬は女でないと仕事を受けないのだ。しかも並の女には見向きもしない。
これだけ言えば分かるだろう？兄の復讐のためにお前には協力してもらうぞ。」
ギラギラした目のお父様の口から出た話はより衝撃的で私は顔が青ざめるのを感じました。
ルドイール兄様が死んでからお父様は確かに変わってしまわれたけど、まさか皇族に刺客を差し向けようだなんて…。
昔から皇帝に忠誠を誓い帝国のために全身全霊をもって働いてきたお父様がそんな事を言い出すなんて…。
優しかったお父様が私にこんな事を命令するなんて…。
兄様が殺された事はそれほどまでにお父様の心を蝕んでいたのでしょうか…？
…そうルドイール兄様は殺されました。
一月ほど前にジュリアーヌ第二皇女が行った「皇女の血杯」事件で…。
結成したばかりの黒槍騎士団の忠誠を高めようとしたのか、
皇女は半妖魔で異端審問官となった己の血をたらした杯の水を飲めと団員に命令しました。
大部分の団員が杯を飲み干す中でルドイール兄様は飲むことが出来なかったそうです。
兄様は熱心な聖霊崇拝者だったから分かるような気がします。
そして…皇女は血を飲めなかったの者の抹殺を命令しました…。
帰ってきた兄様の遺体は酷い状態で、その時に私はお父様が号泣するのを初めて見たような気がします。
父様は優秀な精霊使いであった兄様に次期当主として大きく期待していたからだと思います。
私も…優しかった兄様の死に泣きました。
ですが私にとっては第２皇女は半妖魔で異端審問官である事よりも仕えるべき皇族です。
兄様もテンオレンの人間としてならば血を飲むべきだったと心の奥にわずかばかりの想いがあったのも確かでした…。
ふと兄様の死について考えていると何時の間にか、大男が私の目の前に来ていました。
私を覆い隠すような体躯は筋肉の塊といった様子です。私は最後の望みをかけてもう一度お父様を見ました。
「さっさと行け。」
返ってきたのは後ろを向いたお父様の怒気を孕んだ一言だけでした。
「さぁてと、そろそろ部屋にいくかのぉ？ナルリィーナちゃんや。」
押されるように連れ出される私に扉が閉まるまでお父様は振りかえる事をしませんでした…。
「わしはな。強い輝きをもった女の本音を引き出してじっくりと見て楽しむのが好きなのじゃよ。」
男は泊まっているらしい客室に私を連れて行くとソファーに座り込んで唐突に話し出しました。
私は勧められるままに緊張でこわばった身体をソファーに沈めました。
「何と言うかなぁ？良い女に生の感情を叩き付けられると言うのがまた無性に堪らないじゃ。」
大男は無茶苦茶な事をまるで当然の事の様に落ち着いた語りで自然に話しつづけます。
「だから暇な時には良い女を捜してはお願いして回るし、仕事の報酬もそれにしておるんじゃ。」
その穏やかな口調から話しの分かる人かとも思いましたがそれは絶望に代わりました。
それにお父様の命令ならば呼んでも警備の者は来ないでしょうし、男が私を解放するとも思えません。
「だからなぁ。今もお願いするんじゃ。ナルリィーナちゃんや。ワシに抱かれてくれんかのぉ？」
大男は真面目にお願いと言っていますけど、私には拒否権があるとは思えませんでした…。
私もいつかは結婚相手に捧げるのだと思っていましたが、まさかこんな事で奪われる事になるなんて…。
無性に悲しくなって涙が出てきそうになりました。
「なに心配する事はないんじゃよ。ワシは初めての女も慣れておるからのぉ。」
肩におかれた手にビクッと反応した私に大男は優しい口調で語りかけます。
声を出そうにも喉がカラカラで何もしゃべれなくなってしまっていました。
私が拒絶を示さないので男は私を軽く抱きかかえるとベットまで運んで優しくおろしました…。
………大男は不思議なほど優しくゆっくり…ゆっくり…と私の体から快楽を引き出していきました。
私は初めて感じる激しい感覚に幾度となく意識を飛ばされ続けて抵抗など考える事も出来なくなりました。
最後に精根尽き果てた私を男が引き裂いた時には、いっそ心が壊れてしまえばと思いもましたがそのような事にはならず、
私は初めから終わりまで全てを心に刻み込まれました…。
全てが終わった時、私に傷をつけた男を忘れない様に大男の顔をじっと見ていました。
そうしていると、ふと男の名前すら知らないと気づきました。
「貴方の名前は…教えてもらえないのですか？」
起き上がる力も無く横たわる私の髪を大男はゆっくりと撫でました。
「こりゃぁ、失礼したのぉ。ワシの名はウラッズじゃ。ウラッズ・バディシスじゃよ。」
体に残る痛みと激しい疲労でそのまま眠ってしまいたかったのですが、大男の前で無防備に寝るのも嫌でしたので、
暗く沈み込もうとする意識で私は色々な事を考えていました。
「…ふぅ、…皇女へ復讐して…それでどうなると言うのでしょう…？」
その内、父様の行動について考えていると私は独り言を喋っていました。
「そうじゃのう。ワシが皇女の立場だったらな…、血杯事件で黒槍騎士団の不忠義モンを始末するだけでは終わらせんがのぉ？」
意外にも返ってきたウラッズの言葉に私は考え込みました。
そうしてウラッズの言おうとしている事が理解できました。
「…そうね。私でも分かるわ。半妖魔である皇女に反感を持つ貴族は兄様や父様の様に少なくありません。
きっと今回の事件のせいで強い反感を持つ貴族はなにか行動するのでしょう。
そしてその勢力を潰せば皇女に表立って逆らうほどの貴族はいなくなるでしょうね…。」
５年前行儀見習いで帝宮にあがった時に私は偶然にもジュリアーヌ第２皇女に仕えました。
軟禁状態にあった彼女は暗いわけでもなく利発で幼いながらも皇族の威厳を持っていました。
私は半妖魔というよりは皇族に仕えるという光栄な気持ちが強かったので、
半妖魔と恐れて近づかなかった他のみんなに比べれば彼女を良く知る事が出来た方だと思います。
確かに彼女ならばその程度は簡単に思いつく事が出来るのでしょう。
「………だとしたらお父様を止めないと…。でも一体どうすれば…。」
ですがまるで狂気に憑かれたかの今の様子では何を言っても聞いてもらえそうにありません。
考え込む私を不思議そうにウラッズが覗き込みました。
「なんじゃ、ナルリィーナちゃんは皇女を殺して欲しくないのかのぉ？だったら止めようかの？報酬はナルリィーナちゃんじゃからのぉ。ナルリィーナちゃんの言う事を聞くのが筋じゃからのぉ。」
あっさりと仕事を放棄するというウラッズの言葉に驚きました。
「…それだけではダメだわ。お父様の様子なら別の誰かを雇うだけでしょうね…。」
体は酷くだるくて目を開いているのも辛くなってきました。
私は幼い頃より教え込まれてきたテンオレン家を守り帝国を守ると言う事をどうすれば出来るか必死で考えました。
「お困りのようじゃのぉ？ワシがなんとかしてやろうかの？前払分はずいぶんと気に入ったからのぉ。なんと言ってもそこらの女のようにすぐに喚いて手を出したりしないような女にはめったに会えんからのう。」
ウラッズを雇う？…刺客を雇ってどんな事をすれば………、
あっ！？
私はある考えを思い付きましたがあまりに恐ろしい考えでしたのですぐに振り払いました…。
「…とりあえず、もう寝ます。明日考えますからお父様の仕事は受けるのを引き伸ばしてくれますか？」
ウラッズはニヤリと笑うと手で私の言葉を遮った。
「まあ任せておくのじゃ。だがな…言っておくが成功報酬は後払いでちゃんと別で貰うからのぉ？それでもいいのかのぉ？」
また！？どうすべきか考えようとしましたが、ちょうど強烈な眠気が私に襲いかかりそのまま眠ってしまいました…。
次の朝、屋敷の喧騒で目を覚ましました。
ウラッズの部屋で眠ってしまった為に執事は大騒ぎで私を探していたようでした。
「ナルリィーナお嬢様！だっ、だんな様が！！！」
急いで身支度を整えて部屋を出た私は執事から話を聞いた時、思わず気を失って倒れそうになりました。
「そんな…お父様が…殺された…ですって………！？」
気が付くと私は後ろからウラッズに支えられていました。
その顔は得意満面でした。
「どうじゃ？ナルリィーナちゃんが考えていた通りにこれで事が進むじゃろ？」
小声で語られた事実に私は一瞬意識が真っ白になりました。
確かに昨日お父様を止めるにはそれしか無いとも考えましたがあまりの恐ろしさにその考えは捨てたつもりでした。
ですが他に良策が思いつかなかった事も確かです。この男は私の考えを読む事でも出来るのでしょうか？
「ナルリィーナお嬢様！これから一体どうすればよろしいのでしょうか？」
執事の声に私は我にかえりました。
まず今考えるべきは事は何か…私が出した答えは自分の罪からの逃げだったのかもしれません。
「…私がお父様にかわりこれから当主につきます。ですが色々準備が必要ですからとりあえずお父様は急病だと関係各位に伝えて下さい。」
執事にお父様の死について隠す事を命令すると私はこれから何をすべきかを全力で考え始めました。
「ナルリィーナちゃんはしばらく急がしそうじゃから後払い分は落ち着いてからでかまわんよ。ワシもナルリィーナちゃんが気に入ったから飽きるまではここに居ようかと思うしのぉ。」
ウラッズが出ていくと言えば、なんとしてもその口を封じるために手間がかかる所でしたから、助かったと思いたい所ですが、替わりに私に降りかかる事を思うと全てを投げ出したくなりました…。
「ナル姉様…」
ちょうどその時妹のルゥナリアがやってきました。
もう何が起こったのか聞いているのか大粒の涙が頬を流れています。
ひとしきり私の胸の中で泣いた後は不安そうな顔で見上げてきました。
「ナル姉様…あたし達はこれからどうしたらいいの？どうなるの？」
１３歳とはいえ、既にお父様の手伝いでそれなりに世の中を知っているせいか、
ルゥナリアはお兄様お父様と立て続けに死んだ事で自分はどうなるのか不安になったようです。
その顔を見た時に私は決意しました。
殺されてしまったお兄様。殺してしまったお父様の替わりに家を守り家族を守ろうと…。
どんな事をしてでもそれを成し遂げる事が私に課せられた罪滅ぼしだと…。
幸いなことに私には優秀といえる妹弟がいます。
みんなの力を借りればなんとか出来そうな…いえやりとげてみせようと思いました。
「大丈夫、大丈夫よ。私が頑張るから…ルゥとルゼとシュラが手伝ってくれれば何も心配する必要はないわ…。」
あれから３日後、お父様の葬儀が慎ましく行われました。
世間には暗殺とのウワサが流れました。どうやらお父様はかなり反皇女派として活動されていたようです。
あまり探られて本当の事が知られてしまえば全てが終わりますので公式には病死と発表しました…。
こうして私の戦いは始まったのでした…。
■キャスティング・リスト
ライゼンス・テンオレン／ＮＰＣ／テンオレン家当主
本来は皇帝を敬い民を愛し帝国のために働いてきた真面目な貴族の男。
だが期待をかけていた息子をジュリアーヌ第２皇女に殺されてから復讐鬼として変わってしまった。
ルドイール・テンオレン／ＮＰＣ／テンオレン家長男（１７歳）
黒槍騎士団に参加していたが「皇女の血杯」事件にて惨殺されたライゼンス期待の長男。
強力な精霊術師であったらしい。
ナルリィーナ・テンオレン／ＰＣ／テンオレン家長女（１５歳）
あまり感情的にならず温厚な性格だと言われている心に芯の通った少女。
本当は感情的になるよりもまず思考してしまうだけである。愛称：ナル。
ルゥナリア・テンオレン／ＰＣ／テンオレン家次女（１３歳）
音楽を愛するおとなしい少女。ガルゼッタの双子の姉。愛称：ルゥ。
ガルゼリッタ・テンオレン／ＰＣ／テンオレン家３女（１３歳）
熱血精霊術師の少女。１０歳より精霊神殿で修行していた。ルゥナリアの双子の妹。愛称：ルゼ。
アシュラス・テンオレン／ＰＣ／テンオレン家次男（１２歳）
熱血少年。家族を愛していてルドイールを殺したジュリアーヌを憎んでいる。愛称：シュラ。
ウラッズ・バディシス／ＰＣ／フリーの工作員
その筋では有名で強力な密偵。某犯罪組織に参加しているらしい。性格破綻した犯罪者としても有名。