AFFIXTUER
■前フリ
東方の総合武術流派「虎烈流」の後継者争いは二人の若者で争われていた。
性根は腐った悪党だが優れた技術を持つヴェル（１７歳）と虫も殺せないような性格だが体に恵まれ資質は一番とウワサのウラッズ（１６歳）。
この勝負に勝った方が道場主の孫娘ネマル（１５歳）と結婚して道場を継げる。その争いもいよいよ佳境を迎えようとしていた…。
■７８５年０９月 ある山村
ガスッ！ガスッ！肉が肉を打つ打撃音が響き渡る。
「どうしたウドの大木野郎！ちょっとは抵抗してみせなっ。」
胴着姿の少年達が二人一組でが稽古なのか組み手を行っている。
「………」
体格が良い少年は華麗な技で相手の少年に一方的に攻められていた。
「どうした！ネマルの後ろでしかテメェはしゃべれねえのかよ？」
連続攻撃で息が上がったヴェルが一息入れる。
殴られっぱなしだったウラッズだが呼吸も乱さずに大人しく立っている。
「ちっ、澄ました顔しやがって、ジジイの覚えがいいからって調子に乗ってんじゃねぇよ！」
ドンと気迫をこめたひじ打ちでウラッズの巨体を浮かせるとヴェルはつばを吐き捨てる。
「最後の試練じゃ俺が勝つ！そしてネマルと道場はオレが手にするぜ！絶対だ！」
修練の時間の終了の笛と共にヴェルは十数人の門下生を引き連れて道場を出て行った。
一気にガランとなる道場内。残っているのは数人だけだ。
「大丈夫？ウラッズ？」
健康そうな少女がタオルで汗を拭きながらウラッズにも濡れたタオルを差し出す。
「…うん。大丈夫だよ…ネマル」
おとなしくぼそぼそ喋るウラッズの背中をバンとネマルが叩く。
「もうしっかりしてよ。道場と…あたしの未来が…掛ってるんだからね。」
「…うん…でも…ヴェルと争うなんて…いやだなぁ…」
ウラッズのあまりにも気乗りしていない様子にネマルはちょっと怒り出した。
「…もしかしてあたしと一緒になるのが…嫌なのかな？ウラッズくん？」
幼馴染の阿吽の仲ですぐにネマルの機嫌が悪いのが分かったウラッズは少しだけ慌てた。
「そっそんな事ないよ…。ボクだって頑張るつもりだよ。」
しばらく二人して見詰め合っていたが顔が赤くなってきた時点でネマルが照れて顔を背ける。
「…それじゃ、明日の試練に備えて家に帰って寝るよ。」
ウラッズはそれだけ言うと道場を後にして家路についた。
帰りながらウラッズはネマルが好きになってそばにいたいから入った道場での６年の修行を思い出す。
ネマルがいたから好きでない、人を傷つける武術も頑張ってこれた…。
もし明日勝てなければネマルはあの暴力の権化のヴェルのモノになってしまう…。
そう思うとなけなしの勇気を振り絞って明日は戦おうという気力が沸いてきた。
翌日、多くの門弟が見守るなか最後の試練を門主が継げる。
「最後の試練は一対一の決闘じゃ。相手にマイッたと言わせれば勝ちじゃ。良いな？二人とも」
ウラッズとヴェルは寡黙にうなずくと戦いの場に出る。
「ヴェル！ウドの大木なんてＫＯだぜ、ＫＯ！」
ヴェルのシンパの門下生が叫ぶ中、門主の開始の声が響いた。
「はじめ！」
今までになく激しく技を繰り出してくるヴェル。見ている門下生も並みの実力では目で追うことすらできない。
しかしウラッズには全てが見えていて、わずかな防御ですべての攻撃を無効にする。
じりじりとヴェルが焦れてきた頃、ついに勝負を決める瞬間が訪れた。
「ウラッズ、頑張ってぇぇぇ！！！」
ネマルの声援に後押しされるようにウラッズが渾身の力をこめて繰り出した拳の一撃はあっさりとヴェルをガードごと吹き飛ばした。
ヴェルの身体はその一撃で地面を派手に転がり彼は気を失って地面に這いつくばる。
門主が「そこまで」と言うと同時にネマルがウラッズの胸に飛び込んで首に抱きつく。
「やったね。信じてたよ！」
うれしそうなネマルの笑顔に微笑みを向けようとしたウラッズの目は、弓で自分達を狙うヴェルの配下達を見つけた。
「危ない！」
急いで体を盾にしてネマルを守るウラッズだったがその背中や手足にはいく本もの矢が突き刺さる！
「いやぁぁぁ！！！」
ネマルの叫びを聞きながらウラッズの意識は急速に暗転していくのだった…。
「やだやだ、やめてよ。ヴェル、お願いだから止めて！」
再びネマルの叫び声に気がついたウラッズがゆっくりと目を開けるとそこは道場の中だった。
身体はなぜか荒縄で柱に固定されていて、目の前の光景が目に飛び込んできた。
それは両腕両足を男達に押さえられたネマルがヴェルに体をおもちゃにされているというあまりに衝撃的な光景だった…。
「ネマル！」
ウラッズの声にヴェルが振り向く。ネマルの上半身は既に肌をさらして薄紅色に紅潮していた。
「やっと起きたか、待ち遠しかったぜ。てめえにこれからのお楽しみを特等席で見てもらうためになぁ」
よく見ると道場には門下生全員が集まっているようだった。だがネマルへの酷い扱いを見ても誰一人として助けようとしない？
「もともとな道場はもう俺のもんだったんだよ。お前達以外はそれをみんな認めている。そうだろ？みんな？」
ヴェルの問いかけに周りの門下生達はニヤニヤ笑いながらネマルの体を楽しそうに眺める。
その中に縄をかけられた門主もいるようだった。どうやら門下生全員がヴェルの配下になっていたようだった。
「俺様はな。ちょっとした貴族の息子なのさ。金さえつめばこんな連中は簡単にひざまづく。
だがお前達だけは言う事を聞かなかった。
お前を叩きのめして生意気なネマルも調教してやるつもりだったがちょいと予定変更だ。
ネマルはお前の目の前でたっぷりとオレのモノにしてやる。
まあオレのモンにならないならならないでみんなのお相手をしてもらうだけだ。」
ウラッズの顔につばを吐きかけてからニヤリを笑うと再びネマルに向き直り手を伸ばす…。
「どうだ良く見えてるか？特等席で見せてやるからたっぷりと拝むんだなぁ」
男達に命令してネマルの四肢を広げさせた状態で下着を引き裂き生まれたままの姿にすると、ゆっくりとその瞬間を見せ付けるように腰を近づけていくヴェル。
「やだやだやだやだ、いやぁ。ウラッズ助けてぇぇぇ！！！」
ネマルの悲痛な叫びを聞いても誰も動かない。…こんな事が許されてもいいの？
友達だと信じていたアイツもヤツもネマルの肌を舐めるように見て野獣のような顔をしている。
ネマルの叫びをきいてナゼ神様も助けてくれないの？どうして誰も助けてくれないの？
「…だっ・た・ら・ボ・ク・が・やってやるぅぅぅぅ！！！」
ボキン！ブチブチブチブチ。
ウラッズは縛りつけられていた柱をへし折ると体にかけられていた荒縄を筋肉だけの力で引きちぎりヴェル目掛けて飛んだ。
ヴェルが振り返ろうとした時にはウラッズの手刀が頭蓋骨に突き刺さり、ヴェルは裸のネマルの胸に眼球を撒き散らしながら倒れこむ。
次の瞬間には足刀がネマルの右手右足を掴んでいた二人の背骨をへし折りながら吹き飛ばし、足はそのまま地面に降ろされる事なく左側のふたりの頭をボールのようにケリ飛ばした。
一瞬の出来事に目を剥いた周りの門弟たちが動き出す前にウラッズはその群れに飛び込むと、持って生まれた豪腕を使って文字どおり全員を肉片に変えていった。
「やめるんじゃ！ウラッズ！」
誰かが助けを求めて門主の縄を解いたのか？門主がウラッズを止めようと飛び掛かったがウラッズは空中で捕まえると全体重をかけて地面に叩き落とした。
ベキベキと肋骨が砕ける音と共にボキンと背骨が砕けて門主もまた一瞬で動かぬ骸になる。
その鬼と言うべき強さと非情さをもったウラッズは最後の一人の首をねじ切るまで止まる事はなかった…。
ゴトン…手にもった首を床に落として紅く全身を血に染めたウラッズがネマルを見る。
「もう大丈夫…」
しかし返された言葉は思いもよらないものだった。
「いやぁ…いやぁ…来ないで……」
千切られた上着を寄せ集めながらネマルはズリズリと肢だけで後ろずさる。
「どうしたの…？もう悪い奴等はいなくなったのに？」
ネマルがおびえていると思って優しい声をかける。
「いや…いやぁ…」
しかしネマルはウラッズを見つめながら後ろに下がり続ける。ドン…。
壁際まできてしまったネマルはゆっくりと血まみれの手を差し伸べて近寄るウラッズに叫んだ。
「来ないでって言ってるでしょ！人殺し！鬼ぃ！！悪魔ぁ！！！」
ウラッズの心に強く強く響いたその言葉はそのうちにあるある衝動にも火をつけてしまう。
ゆっくりゆっくりと近づきだすウラッズの目は底冷えし所々に見え隠れするネマルの肌に吸い寄せられていった。
「何？なんなのよ！あっち行け！バカ、デカブツ、ウドの大木！」
恐怖に歪みながらネマルがかける罵声にウラッズは何とも不思議な気持ちを感じていた。
こんなに一生懸命ボクにむかって叫ぶネマルは見た事がないや…
そうか、ネマルもみんなと同じように思っていたんだ。ボクだけが何も知らなかったのか…。
………まだ……なにか…もっと考えているんじゃないのか…もっと酷い事を……、
…なんで言ってくれなかったんだろう？…どうして今言ってくれるんだろう…？
…そうか……もっと…もっと恐がったら…言ってくれるかな…？
ウラッズはネマルの目の前に立っていた。ゆっくりとその手が伸びてくるとネマルは恐怖に失禁した。
「もっと本音を聞かせて欲しいな。」
腕をとって上に固定すると服の残骸で縛り上げてほりだす。
濡れた床に倒れこんだネマルの顔に顔を近づけてウラッズが叫ぶ！
「もっともっと、ボクにホンネを聞かせてよ！」
…出演者はウラッズとネマル。観客は周りに転がる肉片と化したヴェル達。
今、目を背けるような狂気の宴の幕が上がった…。
■キャスティング・リスト
ウラッズ・バディシス（１６歳）／ＰＣ／総合武術流派「虎烈流」の後継者候補
優れた身体能力を持っていたが虫も殺せぬ性格のせいで実力を出し切れていない。幼馴染のネマルに惚れてその家の道場に入門したのだが…。
ヴェル・ラングルス（１７歳）／ＮＰＣ／総合武術流派「虎烈流」の後継者候補
貴族の御曹司で「虎烈流」を自家を強化するのに取り込もうと画策していたが実力はともかく性格に難あり。
ウラッズの才能を妬み色々と難癖をつけていたのだが…。
ネマル・バタガ（１５歳）／ＮＰＣ／総合武術流派「虎烈流」の門主の孫娘
幼馴染で優しい性格のウラッズに惹かれていて、彼が後継者になれるように何かと応援していた。
バタガ門主（６５歳）／ＮＰＣ／総合武術流派「虎烈流」の門主
よる年波に勝てず後継者を求めていた。昔は恐ろしく強く「烈虎」と称されていたのだが…。