AFFIXTUER
■イギリス・イングック村
強い日差しが照りつける中、村への入り口に軽ワゴンが停車する。
バタンッ！
ドアを開けて降り立ったのは修道服に身を包んだ瓜二つの少女二人だった。
「コノ村デアル。準備ヲ開始スル」
双子の姉であるユークレースは妹のアイドクレースにそれだけ伝えると車のトランクから荷物を出す。
アイドクレースも何も言わず荷物を広げて準備を始めた。
トランクからガンベルトを取り出し修道服の上から身につける。
ユークレースはガンベルトには無数のマガジンポーチをぶら下げ、腰には５０口径を誇る大型拳銃を挿す。
左脇下にも９ミリの自動拳銃を挿し、右肩口には大型のコンバットナイフ。
肩のベルトにはいくつかの手榴弾もぶら下げる。
右ブーツ横にも９ミリの自動拳銃にマガジンポーチを、左にブーツにはスペツナズナイフを２本を、
両手には肩からベルトでつるした９ミリのマシンガンを構える。
アイドクレースも同じような装備だが両手に構えるグレネードガンでより重装備である。
…異様な光景だった。
美しいともいえる容貌を持つシスター服の少女達が軍の特殊部隊も逃げ出すような重装備を身に付けていく様は。
最後に二人は肩口に白地に蒼き車輪十字が縫いこまれたマントを羽織った。
現代の剣ともいえる銃器をまとう十字架の使徒…それは現代の十字軍とでも言うべき者なのだろうか？
「アイス、目標ヲ確認スル」
準備の整ったらしいユークレースがアイドクレースに顔を向ける。
「イングック村ハ妖魔ニ侵食サレタト判断サレタ為コレヨリ我ラデ全テヲ殲滅スル」
アイドクレースは変わらぬ微笑と共に何の感情も込められていない声で目的を告げる。
「目標ノ確認ヲ完了。デハ出撃デアル。マズハ村ヲ焼キ払イ、ソノ後に領主屋敷ノ首魁ヲ滅スル」
二人は装備の重さも感じていないかのような軽やかな足取りで村に入っていった…。
最初は村の入り口近くにある家であった。
年配の男性が軒先を掃除をしている。
「おや、あんた達…悪いことは言わん。この村から出て行きなさい…」
深い苦悩が刻まれた顔で忠告する男性へと二人は何も言わずに近づいていく。
「あんたらみたいな若い娘はすぐヤツラに連れて行かれてしまうぞ。早く…グッ…」
すぐ目の前まで来たアイドクレースの手が男性の首を掴んでいた。
それどころか細腕が男性の体を持ち上げてゆく。
「グッ、ガッ…グ……」
男性は目を剥きジタバタを手足を動かすがその手はより一層首に食い込んでいく。
ゴキンッ。
最後に大きな音と共に首の骨が折れて、男性はピクピクと痙攣する。
ユークレースはずっと男性の額をポイントしていた銃を下ろした。
「戦闘能力ハ十分ニ我ラデ対応デキルモノデアルナ」
アイドクレースは軽く腕を振って脱力した男性の体を窓から家の中に掘り込んだ。
続けて肩のグレネードガンを構えてキッチンがあるだろう辺りに撃ちこむ。
グレネードの爆発は調理用のガスに引火に家は一気に燃え上がった。
「オレは違う！オレはアイツラとは違うんだ！たっ助けて…！」
タタタン！タタタン！
３発連射で打ち出す３点バーストモードのユークレースのマシンガンから男の頭蓋に３発、心臓に３発正確に銃弾が打ち込まれる。
村を回り初めて８軒目、抹消した妖魔は２１体目。
納屋に車を見つけたアイドクレースが銃撃で燃料タンクを打ち抜き８軒目の家も炎上する。
二人の炎を見つめる目は油断なく妖魔が逃げ出してこない事を確認していた。
「わぁ～ん、わぁ～ん」
しかし２階から子供の泣き声が聞こえる。
二人は目を合わせるとユークレースが頷き手榴弾を取り出して泣き声の辺りに投げ込む。
手榴弾の爆発の後には泣き声はまったく聞こえなくなった…。
１３軒目に向かう途中、二人へ向って服がボロボロの女が駆けてきる。
「貴方達、助けて、アイツラが！」
女の後ろからは２匹のゾンビらしいものが追いかけてきている。
必至の形相で逃げてきた女は自分が助けを求めた目の前の二人が自分の言葉になんの反応も見せずに微笑んでいるだけの事に気づいた。
「ねぇ…貴方達…助けて………」
その様子を見るとユークレースが微笑を変えずに腰から５０口径の自動拳銃を抜き女に向ける。
ポカンとした顔で自分に向けられた銃を見る。
その顔が次の瞬間に弾けた、続いて胸に大穴があく。
続けて後ろのゾンビも同じように頭と胸に銃撃を受けてぶっ飛ぶ。
ユークレースが５０口径のマガジンを替えると二人して何事もなかったかのように次へと向う。
村にある家を全て焼きはらい、妖魔と化した住人を全て抹消し、墓地の墓を全て吹き飛すと最後の領主の屋敷へ行く。
今まで抹消した妖魔は４８体、村の住人の人数なら残るは１０体。
空は既に夕闇へと色を変えていた。これからは妖魔の時間だ…。
ギィィィィィ。
玄関の扉がゆっくりと開いていく。
ひんやりと空気はまるで負気を帯びているかのようだ。
ロビーは薄暗かったが正面に控える人物を見落とすほどの闇ではない。
「おや、美しいお嬢様方ですな。しかし我が主人は招待状を出してはいないと申しておりましたが…」
タタタン！タタタン！
問答無用でユークレースのマシンガンが火を噴いたが、ふわりと宙に浮かび上がりかわされる。
「おやおや、躾がなってませんね。しかたありません、この私が少々躾と言う物を教えて差し上げましょう」
タキシードを着た男は２階まで飛び上がるとそう言い、同時に二人の周りに複数の影が沸きあがる。
「おっと失礼しました。私の名はラインティ、当屋敷の執事をしております。短い間ですがお見知りおきを…」
ラインティが指を鳴らすと同時に人影が二人に襲い掛かる。
「アイス、ココハ任セルゾ」
「了解デアル、ユース」
一言だけ交わすとユークレースの姿は下級妖魔の囲みから消え去っていた。
同時にアイドクレースは両肩のグレネードガンを落とすと同時に５０口径とコンバットナイフを抜きさる。
ドン！銃低音の銃撃音と共にゾンビの頭蓋が吹き飛ぶ。
身近にせまったゾンビにはコンバットナイフが振るわれて凶悪な力で首を飛ばす。
ひるんだゾンビに銃撃が繰り返され４体のゾンビはあっさりと只の肉塊へと化す。
「バッ、バカな…貴様ら只の妖魔狩人ではないのか！？」
カチン。
驚愕して後ろずさるラインティの後頭部で撃鉄を起こす音がした。
「なっ、なんだと？いっ、何時の間に！」
爪が急激に伸び、後ろへと繰り出されようとしたがそれよりも早く５０口径がラインティの頭部を吹き飛ばした。
「スレイヴカ？後始末ガ必要デアルナ」
ピンを抜いた手榴弾がラインティの体に上に落とされ数秒後に彼の体を灰へと変える。
「ユース、ドコヲ探ス？」
２階へと登ってきたアイドクレースの問い掛けに一瞬考え込むユークレース。
「上カラ地下マデ探ストシヨウ。情報通リヴァンパイヤノ様ダナ。油断スルナ」
結局２階の客間、寝室、書斎などには人影はなく次は１階の探索にうつる。
「君達、待ちくたびれたよ。さぁ、かけてくれたまへ」
広い食堂に入ると奥に３０代の美中年が坐っていた。
横に４人の美しいメイドが控えているが全員同じように青白い顔をしている。
「貴様ガ主人カ？神ノ意ニ反スル妖魔ハ速ヤカニ消エヨ」
ユークレースとアイドクレースの両手の銃口が主人へと向けられた。
「ふふっ、自己紹介がまだだったね。私がこの屋敷の主人のエルエアー・コンウェアだ」
二人の引鉄が引かれようとした時に、メイドがエルエアーの背後から一人の少年を引き出す。
「おっと、この少年はまだ人間のままだ…いわゆる人質というヤツだがどうするね？」
エルエアーの声に対して銃撃は行われないかったが…
「少年ヨ。妖魔滅殺ノ為ニ散ル汝ノ魂ハ神ノ御許デ幸福ヘト誘ワレルダロウ」
ユークレースの宣言と共に二人は射撃を開始する。
ガン！ガン！ガン！
しかしエルエアーの掲げた腕より不可視の盾が展開されて銃弾は周りに弾かれた。
「私にその様な無粋な物は届きはしないよ。くくくっ、それ、皆で相手をしてあげなさい」
その声に応えてメイド達が身軽な身のこなしで壁を蹴り二人に襲い掛かる。
「左ヲ！」
ユークレースの叫びにアイドクレースのグレネードガンが１体のメイド…スレイブを吹き飛ばす。
同時にユークレースのマシンガンがフルオートモードに変更されて右から迫るスレイブを蜂の巣に変えた。
だがさすがに残り二体には目の前まで迫られる。
物言わぬスレイブ達は爪を伸ばして二人を切り裂こうと腕を振るった。
しかしユークレースは瞬時にその場所から移動していて爪は宙を裂いた。
アイドクレースは掲げたグレネードガンで爪を受け止める。
次の瞬間にはスレイブの背後からユークレースのコンバットナイフが両目を切り裂き、アイドクレースがスレイブを蹴り飛ばす。
「ほう…ザコという訳ではないのか…んっ？その紋章は…聖マルグレーテ修道会か！」
二人のまとうマントの車輪十字を見たエルエアーが驚く。
その声と同時に２体のスレイヴが銃撃を受けてバラバラに破壊された。
「なるほど、マルグレーテの妖魔狩りか、下僕では相手にならない訳だな」
エルエアーにグレネードが撃ち込まれるが前と同じように不可視の壁より先には届かない。
「無駄だよ。無粋な鋼は私に近づくことすら出来ない」
再び銃撃を行うがやはりエルエアーまでは届かないようだった。
「フォーメーションＶＣデ行ク」
アイドクレースは返事の変わりにエルエアーに連続してグレネード弾を叩き込む。
はげしい爆発が起こるがエルエアーにはもちろん届かない。
だがその視界は爆炎でさえぎられていった。
「どこだ…？だが見えなくとも！」
エルエアーは結界をしっかりと保持しながら人質の少年を前に抱える。
ガキン！
エルエアーの結界の左側にコンバットナイフが突きたてられたがそれもまた弾かれた。
「そこか！」
エルエアーが右腕を振るうと風が巻き起こりコンバットナイフを構えていたアイドクレースを吹き飛ばす。
だがエルエアーがアイドクレースに向いている間にユークレースが反対よりエルエアーの目の前に近づいていた。
「何時の間に！」
あっという間に結界まで踏み込んでいたユークレースを見て人質を盾にするエルエアー。
「ぐっ！」「がぁぁぁ！」
しかしユークレースは何の躊躇もなく猿轡をされた少年ごとエルエアーの心臓に壊れた椅子の一本の足を思いっきり加速して体当たりで突き刺していた。
「バカな…貴様…何の罪もない子供を犠牲にするというのか…？」
少年は胴体を串刺し状態で即死のようだった。
下がっていくユークレースが全ての装備を除装している様をみて結界を越えて来た理由を悟ったエルエアーが語りだす。
「貴様らは何時もそうだ。全てを滅する。妖魔だからと言って何故滅ぼされなければいけないのだ…」
心臓に木の杭を打つ。定番の吸血鬼の退治方法。エルエアーは普通の吸血鬼であったらしくそれは致命傷になっているようだった。
「３００年にわたり我が血族を狩り続け最後に残った私すらも滅ぼすのか…何故だ？そんな権利が貴様らにあるというのか…」
血を吐きながら呪いの言葉を吐くエルエアーには目もくれずユークレースはアイドクレースの元へ行き容態を見ていた。
「衝撃デ気ヲ失ッタダケカ？起キロ、アイス。何カ問題ハアルカ？」
衝撃で気絶していたらしいアイスは回復するとエルエアーと少年目掛けてグレネードガンを構える。
「「汝ノ魂ガ神ノ御許へ届キマス様ニ…アーメン」」
少年へと二人の祈りが送られると同時にグレネード弾がエルエアーと少年を吹き飛ばす。
また転がるスレイヴ４体も用心に手榴弾で灰にした。
一通りの討伐が済んだはずだが、屋敷を探索する二人。
最終的には燃料庫を見つけて火を放ち屋敷を燃やし尽くす。
そうしてイングック村から全てが消滅させられたのだった…。
■マルグレーテ修道会イギリス支部
表向きは只の修道院であるマルグレーテ修道会イギリス支部。
支部長は本部よりのある指令書を読んだところだった。
「ふん。虫のいい事を言ってくるものだ」
指令書を机にほりだして椅子にゆっくりと坐りなおし目を閉じて考え込む。
指令は修道騎士を日本支部へ派遣する事だった。
「だがあのセトグチの依頼か…何か日本で起こると言うのか…」
依頼人の名前はその指令に従わないわけにはいかないほどの意味があった。
だが誰を送る？
幾人かが思いつくが指令に書かれた一文に適するものはいなかった。
「しかし、ヤツは何を考えているのだ。まったく」
指令書には一文『可愛い娘をよろしく』とある。
しかたなしに容姿を優先に考えるとある人物が浮かび上がった。
「あの人形か…容姿と戦闘能力は悪くは無いが…」
前の妖魔討伐でも村ごと殲滅したりと融通が利かない点が問題としてある。
だが支部長はわざわざ書いてある注文を優先する事にした。
「ユークレース達を呼んでくれるか」
傍に控える秘書に声をかけてから簡単な指令書を書く。
「今は安定してるとはいえ、厄介者と言えば厄介者ではあるがな」
ペンを走らせながら彼女らが向う地で待つ運命が良きものであることを支部長は神に祈った。
■キャスティングリスト
ユークレース・ランカスタート 女/13歳/ネットワーク/シャドウ/142㎝/33㎏
妖魔滅殺を掲げる聖マルグレーテ修道会の修道女。全てを殲滅することから妹と共に殲滅兵器などとも呼ばれたりする。色々と秘密があるらしい。
アイドクレース・ランカスタート（ＮＰＣ） 女/13歳/ネットワーク/シャドウ/142㎝/33㎏
妖魔滅殺を掲げる聖マルグレーテ修道会の修道女。ユークレースの双子の妹。感情喪失の精神病らしい。
ラインティ（ＮＰＣ） 男/43歳/スレイブ
エルエアーに使えていた執事
エルエアー・コンウェア（ＮＰＣ） 男/323歳/ヴァンパイヤ
聖マルグレーテ修道会に一族を狩られた逃げていた吸血鬼
支部長（ＮＰＣ） 男/51歳/ガーディアン/アーティスト/183cm/72kg
聖マルグレーテ修道会のイギリス支部長。ユークレース姉妹を拾って修道騎士にする事を決定した人物でもある。