AFFIXTUER
京都、清水若宮邸の中庭。
シャラン………
鈴の音と白と赤の色彩が揺らめく。
シャラン………
時として全てを照らす太陽を仰ぎ、
シャラン………
時として全てを支える大地を抱き、
シャラン………
時として全てを育む雨の音を聞き、
シャラン………
時として全てを包む風の流れの中に舞う。
神楽舞の修練を終えたばかりの上気した体は冬の寒風すらも心地よい。
「ふぅ〜、なかなか上手く出来たやろ？」
横でジッと自分の舞を見ていた師であり祖母は小豆の問いかけに満面の笑みを浮かべた。
「そうやね。なんとか人様に見せるぐらいにはなったんやないかね。」
少し意地悪な言い方をしながら祖母は孫の成長に十分に満足していた。
「それやったら…行ってもええやろ？」
それは約束だった、一人前になったら外に出ても良いとの幼かった小豆との約束。
「………無茶はしちゃいけないよ」
祖母はゆっくりと孫を抱きしめながらいとおしそうに頭を撫でる。
「分かってるって、ばぁちゃん、心配せんでええって！」
部屋に戻り旅支度をしながら小豆はある決意をしていた。
「ゴメンな。ばぁちゃん…。」
樹精が牙を向いた。その話を聞いてからいてもたってもいられくないのだ。
若宮がその騒乱を治めるために人員を派遣するとしても………。
樹精たちの力になりたいと思ったのだった。
小豆は樹木や草花が好きだ。
それは季節を巡り成長した姿をいつも見せてくれる穏やかな生命そのものに思えるからだ。
そんな彼らに牙をむくといった行為はして欲しくなかった。
たとえそれが生きるためであってもそれは彼らには穏やかなままでいて欲しかったから…。
だから若宮衆がどう動くとしても樹精の側に行くことだけは決めていた。
そしてもう一つ………。
「ウチは許せんのや………。」
新宿の騒動にて能力に覚醒して今や若宮筆頭護法となった若宮珠希。
十二羅刹を使役するその力は絶大で、珠希覚醒の報は若宮邸を沸かせたのだが………。
「なんで人殺しなんかで…みんな…」
小豆は先の黙示録事件で両親を失った。清水若宮邸にいた親類縁者もかなりの人数が死去した。
あの時を思い出すと今でも悲しみに胸がつぶれそうになる。
そんな経験から死を招くモノを嫌悪するようになっていた。
そしてその気持ちは味方の死だけでなく敵の死であろうともすこしも損なわれるものではない。
だから人殺しをした事を祝っているようにも思えてしまう若宮邸の雰囲気が許せなかった。
もちろん人を殺めた珠希を許す事も出来なかった。
その珠希が四国に行くのだ。
それは大好きな樹精たちと珠希が死をもたらす事を連想させる。
「珠希姉ぇ、ウチはアンタの思いどおりになんかさせたらへんで！」
樹精たちを珠希に殺させはしない。
小豆が手に持つ御神具たる神楽鈴「貴鈴（きりん）」がその決意に答えるように澄んだ音を響かせた・・・。
■キャスティングリスト
若宮小豆（わかみや・あずき）／女、１３歳／ガーディアン、ビショップ
清水若宮の若き舞手。黙示録事件で両親を失った事で「死」を極端に嫌っている。