真・女神転生プラリア 作者：白拍子さん 掲載日：２００１．７．１２
「ではあなたは、この神社の巫女ではないのですか？」
「はっはい！」
守矢神社の調査に来ていた、風月院 神楽は、同じ目的で来ていた御鍵 遊里に対して、いろいろとこの神社に関して質問したが要領を得なかった。
それもその筈、遊里は荒谷神社の巫女であったからだ。
まあ、巫女装束のままでうろついていたから、誤解されてもしかたない。
そういう神楽も、ツクヨミを奉る秋月神社の巫女である。
もっとも彼女は、大学生でもあるから、いたって普通の格好である。
初対面であったが、神楽の話し上手と、巫女同士という事で打ち解け合い、会話がはずむ。
その主たる内容は、この所続いている神社襲撃事件の事だがお互いまだ有益な情報は持っていない。
「風月院さん」
会話が一区切りついた所で、神楽を呼ぶ男の声がした。
遊里がその声に振り向くと。
墨染めの僧衣をまとった、まだ若い（と言っても遊里よりは年上だが）神父がそこにいた。
「あっ、氷室、そっちはどうだったの？」
「手掛かり無しですね」
「ふ〜ん、そうか………」
「それでは、桜木さんと先に合流してますので」
「ん、わかった」
短いやり取りの後、氷室はその場を辞した。
遊里はその後ろ姿を、ぽ〜っと見てた。
神父さんという珍しいもの（笑）を、しかも神社の境内で見たのだから無理も無い。
「ちょっと、ちょっと！」
「あ、はい★」
どうやら、いつものように、ぽ〜っとしていたらしい。
ほんの僅かな間だったが、無視された神楽が少し怒った顔をしている。
「あっ、ごめんなさい、わたしときどき、ぼ〜っとしちゃうんです」
『神父さんか〜、はじめてみたな〜』
遊里は謝りながら、さっき会った神父の事を、ちょっと考えていた。
「こんにちは」
「あっ、はい、こんにちは！」
荒谷神社のヤタガラスの封印を解くべく、御影陣営の作戦は封印を解く別働隊を編成し、正面の部隊が偽の剣で国津陣営を牽制している間、別働隊が封印を解くという手筈だ。
遊里は早く解決する事を望み、荒谷神社の道案内をかってでた。
そして、編成された別働隊に、この間会った神父。
氷室 蛟の姿があった。
「えぇっと……」
「遊里です、御鍵 遊里です」
「そうですか、以前、風月院さんと話していた方ですね、守矢神社の方と思ってましたが、そうではなかったのですね」
「えぇ、そうなんです」
「私の紹介がまだでしたね、氷室 蛟です、見てのとおり神父です」
「神父様……ですか？」
「別にそうかしこまらなくともよいですよ」
常に微笑みをたたえながら、氷室が答えた。
「これで大丈夫、もうこれ以上出血しないはずよ」
「ありがとうございます」
戦いは終わった
桜山 涼子のテキパキとした治療が、負傷者を助けていた。
遊里も気が付けば、あちこちに傷を負っていた。
しかし、それよりも重傷を負ったものも少なくはない。
『星の智慧派』によるクラーケンの出現。
御影やサルタヒコ達の増援、封印を解かれたヤタガラスがいなければ怪我人はもっと深刻な数になっていただろう。
遊里のとなりにいるヤタガラスの封印を解いた氷室も大怪我をしていた。
「あの〜、大丈夫ですか？」
「え、えぇ、なんとか……」
遊里の問いかけに、氷室はいつもの微笑みを返すが、少しぎこちない。
『いたそ〜、だな〜』
上半身や頭に巻かれた包帯が、痛々しく見える。
遊里が視線を逸らすと、半壊した境内が視界に広がる。
「……………」
半ば茫然とその光景を眺めていると。
直立して、キッと見据える風月院 神楽の姿があった。
「邪神などの好きにはさせない！」
戦いの跡を見据えながら、独白する神楽。
そこには強い決意がみなぎっていた。
ツクヨミに仕える巫女としての………。
「大変な事になりましたね」
「えっ？あ、はい！」
不意に、氷室から声をかけられた遊里は、慌てて声をかえす。
「もっと速やかに封印が解けていれば……」
「そっそうですね、けど、けど！遊里たちは頑張ったじゃないですか！」
「……そうですね、全力は尽くしましたね。しかし、これからはもっと激しい戦いが起こるやも知れませんね」
「そうなんですか？」
「多分……」
その時遊里は、氷室の視線の先に、神楽の姿があるのを知った。
そしてつい氷室の横顔を覗き込むと、いつもの笑顔ではなく、何とも言えない複雑な表情をしていた。
その時の遊里には理解出来なかったが。
その後、その表情の意味を理解する事になる。
「よろしかったら、私の教会へどうぞ、寝泊まりくらいはできますから」
「えっ…いいんですか？」
御影とタケミナカタの会談は成功した。
しかし、星の智慧派の封印によってタケミナカタは石化した。
そして、遊里の家でもある荒谷神社は占拠され、帰る所を失った遊里が途方にくれていた時、氷室が申し出た。
「それでは、おじゃまさせてもらいます」
こうして、教会に巫女が居候するという、奇妙な共同生活が始まる。
そしてそれは荒谷神社を奪還するのに成功した後も続く事になる。
「氷室さん！いえっ蛟さんっ！
神楽さんとはどういった 間柄なんですか！？」
御影さんとの打ち合わせで、神楽の身を心配する氷室の姿を見た遊里はすべての勇気を総動員して、氷室に詰め寄った。
『……くやしい。好きになったのは先かもしれないけど
気持ちなら負けてないのにっ……………
やっぱり、神楽さんとの方が、お似合いなのかな……』
いままで天真爛漫に生きていて、自由奔放だった遊里だが。
氷室に対しては、わが身の不甲斐なさに泣きそうになった事もある。
しかし、今は泣きそうになる気持ちを押し込めて、立ち向かっていた。
「ゆ、遊里さん……」
遊里の剣幕に、氷室は絶句する。
しかし、真摯な遊里の瞳を見返して、氷室は言った。
「た、確かに、風月院さんに魅力を感じたことはあります」
「しかし、いま、守りたい大切な人は……」
「遊里さんです！！」
いつもは細い目を見開いて、氷室は言い切った。
「…………………」
遊里は氷室の言葉に、顔を朱に染め上げた。
そして、ようやくその唇が言葉を紡ぐ。
「……もう、この言葉に騙されてあげます！」
胸の奥から、ぽこぽこと沸き上がってくる嬉しさを、遊里は感じていた。
「遊里！左っ！」
「はいっ！」
星の智慧派の魔術士に対して、遊里が封呪で呪文を封じる。
そこに氷室が飛び込み、剣で一撃を加える。
そして、まだ距離の開いている敵に氷結の呪を叩きつける。
忍び寄って来た悪霊を、遊里が破魔で成仏させる。
「蛟さん、大丈夫ですか？ あっ怪我してますよ」
「ええ、かすり傷ですよ」
「むぅ、駄目ですよ、ちゃんと治さないとぉ」
遊里が治癒の呪を、氷室の傷口に充てる。
『……いつからだろうな【遊里】と呼ぶようになったのは』
『【神父様】【氷室さん】そして【蛟さん】……』
「いつからなんでしょうか？」
「！？ 遊里？」
「は、はい！ なんですか！？」
「………傷、治ったけど」
「そ、そうですね」
「それじゃあ、どうしてもだめってことっ！」
「ありたいていに言えば、そうですが」
お茶を運んで来た遊里は、ドアを通して聞こえてくる、神楽の声に驚いた。
「わかったわ！もう、たのまないっ！」
ドアが勢いよく開け放たれ、神楽が出てくきた。
「きゃ！」
「………遊里ちゃん」
「あ、あの〜お茶を……」
「……いいわ、別に」
「え、でも…」
「それじゃ」
お茶を乗せたトレイを持ったまま
遊里は帰って行く神楽を見続けていた。
はっ、と、気付いて部屋に入ると、氷室が沈痛な趣で座っていた。
「蛟さん」
「………遊里」
「どうしたんですか？ 神楽さん帰っちゃいましたけど」
「……いいんですよ」
「よくないです！ 神楽さんと喧嘩したんですか！？」
「喧嘩……ではありませんね、意見が別れてしまったのです」
「蛟さん！」
「遊里、そんなに恐い顔しないでください」
「むぅ」
しばらくの間、沈黙が空間を支配する。
それを破ったのは、遊里であった。
「蛟さん、悩んでるんだったら苦しいんだったら、遊里に話してよ。
きっと、きっと、楽になるから、ね。」
「……そうですね、では、聞いてくれますか？」
「はい」
「むぅ」
「待ってください、遊里！」
オトヒメとの会見（？）の後で、遊里は不機嫌をあらわにして、早足で擬装中の『ちょ〜竜宮城・改』の艦内を歩いてゆくのを氷室が追っていた。
「遊里！」
ようやく追いついたが、ほっぺたを膨らました遊里が振り向く。
「むぅ、なによ蛟さん、オトヒメさんにデレデレしちゃって！！」
「そ、それはその……」
「ど〜せ、遊里の胸はちっちゃいですよっ！ お化粧しても色気なんかないし、それに、それに…」
遊里の剣幕に押されて、言葉を挟めなかった氷室だが、一息ついたところで、遊里に言った。
「遊里、その……今夜、砂浜で待っていてくれませんか？」
「えっ！？」
いきなりの言葉に、きょとんとする遊里。
「……ここじゃ駄目なの？」
「ここで……ですか？」
困った表情で、周囲を見る氷室。
「引け〜！ 力の限り引け〜！ 根性見せてみろ〜！！」
「中央入口は、午後三時より、搬入専用となります」
「武装関係の移動は、慎重におねがいしますっ！！」
「わぁぁぁぁぁっ！ そこどいてくれ〜っ！！！」
どぉ〜〜〜〜〜〜ん！！！
「その、ここではちょっと……」
「……わかった、じゃあ今夜、ね」
「蛟さん、どうしたんですか？」
氷室は険しい表情で、暗い部屋でたたずんでいた。
デビル・バスターどうしの情報交換から帰って来てからずっとそうなのだ。
最初、遊里は『そっとしておくべきかな？』と思い、静観してたが。
やはり耐えられなくなり、氷室に声をかけた。
遊里の声に、はっと気がつき遊里の顔を見る。
遊里の顔に、心配そうな表情を見つけ。
一息だけ息をつき、遊里に語る。
「遊里……もし、私が人でなくなっても……愛してくれますか？」
あまりもの言葉に、遊里は息を飲んだ。
遊里は、人魔合体、人と悪魔を合体させ、人である事を捨てる代わりに更なる強さを得る事。
そして、その資格が氷室にある事を、彼の口から聞いた。
「何の…ために？」
「遊里……」
氷室の声が震えている、そして、遊里の腿に顔を埋める。
「恐いんだ……戦うのが……」
「恐いんだ……凶悪な邪神と戦うのが」
「そして、そしてっ！恐いんだっ！！戦いの中で遊里を失うのがっ！」
「だから…だから強い力が欲しいっ！」
「どんな時でも、遊里わ守るためにっ！」
「けど恐いんだっ！人でなくなるのがっ！遊里に愛されなくなるかもしれないのがっ！！」
最後には泣き声になり、涙が遊里の腿を濡らしている。
遊里はそっと、氷室の頭を抱えるように髪を撫でる。
「蛟さんは……力を求めるのですね……」
「立ち向かうために行くのならば…遊里は、止めません」
「その時は、ちゃんと顔を上げて、自分のやろうとしてる事、そして、遊里を見つめてくださいね」
「そんなあなただから、信じられる」
「それに、私があなたを愛さなかったら、誰があなたを愛してくれるの？」
「私は何があっても大丈夫よ。ただ、あなたが大丈夫なのかが心配なの」
遊里の慈しみは、氷室を癒す。
まるでね悪夢を見た幼児をあやすように…………
氷室が顔を上げる、涙を吹き、遊里の顔を見る。
もう、不安の影は晴れている。
「ごめん、遊里」
「遊里を守ると言ったけど、守られているのは私の方ですね」
「蛟さん……」
暖かい笑顔で、遊里が迎える。
そう、二人は最も大事なもの。
おたがいを信じる心を、見つけたのかもしれない。
暫くの静寂………
「蛟さん……蛟さん、遊里ね少しわがままを言っていい？」
いつもとは違う夜。
氷室の腕の中で、遊里は小さく寝息をたてていた。
『本当にこれでよかったのだろうか……』
『遊里を傷つけるだけにならないのだろうか……』
『……………』
答えなど、出るはずが無い。
「蛟さん」
「遊里！？」
いつのまにか、遊里は起きていた。
氷室の表情を、じっと見つめ。ポツリと呟く。
「朝なんか……こなければいいのに………」
「……そうですね」
暫くの沈黙。
「けどね、遊里、どんなに闇が濃くても、明けない夜はありません」
「しかし、今は誰かが戦わなければ、闇のままかもしれません」
自分自身にも語りかけるように、氷室は語る。
「遊里、私は犠牲になるのではありません。前に進むんです」
「その勇気を与えてくれたのは、あなたです……」
「けど、けどそれはあなたを…」
遊里が氷室の唇を塞ぎ、氷室の言葉を止める。
「蛟さん」
「蛟さん、あのね、人魔合体、遊里も連れてって」
「！！！」
「ダメ！ なんて言わないでね」
「おう、いらっしゃい」
「おじゃまします」
「おひさしぶり〜」
喫茶店『ヒース』悪魔の跳梁跋扈するいまや、ほとんど開店休業状態のである。
この店の主人、夏木 静樹は髑髏の稽古着を着込み、様々な術具を懐に忍ばせていた。
「悪いな、俺も出かけるので茶しか出せないが…」
「ううん、とっても美味しくいただいてますから☆」
夏木が奥から、脇見の壷を運んで来た。
これには、氷室の仲魔エンプーサ。そして遊里の仲魔のハイピクシーとケットシーが封じ込まれていた。
むろん、オトヒメ達と決戦に赴く時の戦力として、共に戦うためだが氷室のエンプーサは合体の素材……そう、人魔合体の素材として氷室と合体するのだ。
「ずいぶんと、ものものしいですね？」
「ん、わかるか？」
「ええ」
氷室は、夏木から尋常でない決意を感じていた。
「タケミナカタ殿に、直談判するのだよ、もっとも口で説得出来る相手ではないからな」
と、言って自分の腕をぽんと叩く。
「直談判？ 夏木さんいったい何を、たのみに行くのですか？」
遊里の問いに、夏木は少し考えて答えた。
「タケミナカタ殿が、タケミカズチ、ヤタガラスと合体して、
ヒノカグツチとなってクトゥルーと戦うと言うのだ、
それを阻止しようとな……」
『合体…』 遊里の手から、湯飲みが滑り落ち。床に接触して砕ける。
「遊里！」
「あっ……ご、ごめんなさい！」
「遊里ちゃん、どうしたんだ！！」
「な、なんでもないの………」
無理に笑顔を作ろうとする。
夏木が氷室を厳しく見据える、氷室は無表情にその視線を受け止めた。
その険悪な空気に、遊里がわってはいる。
「ほんとに、ほんとになんでもないんだからっ！！」
はんば泣き声に近い声で、遊里は叫んだ。
「ほんまに、ええんやな」
魔人調合師と呼ばれるデビルバスター、棟区 東が氷室に聞いた。
氷室は無言でうなづく。
「一応聞くことにしとるんや、人間やめるんやさかいな」
「それにしてもなぁ、いろんな奴みてきたけどな、女連れは初めてや」
邪教の館、悪魔合体を行い、より強い仲魔を作る場……
そして、今ここで人魔合体が行われようとしている。
氷室と遊里は、そこにいた。
脇見の壷から、エンプーサーが。
棟区のコンピューターから、ガギソンが。
遊里の召喚の呪で呼び出される。
儀式は、始まった。
『人でなくなるのだ、彼は。
遊里は生きている限り誰にでも救いはあると思っている。
そして、死なない為に、生き抜く為に
彼は人であることを捨てようとしている。
彼自身の意志
だから、私は止めようとはしなかった。
…………私が彼を止めていた方が、彼の為だったろうか
けれど勝利はまだ見えない。
未来はまだ決まっていない。
勝つ為に、生き抜く為に
彼は自分自身を犠牲にしているのだろうか？』
儀式は終わった。
微かに桂の香りが漂う。
人としての姿はほとんど留めていた。
否、その背から生えた翼、体を包む淡い光…………
そう、天使といってもいいだろう。
氷室が瞳を開く。
人のものではない、碧い瞳。
遊里の瞳に、それが映りこむ。
「蛟……さん」
「遊里」
『あぁ、あなたは心を犠牲にしないために、力を欲したのね。
彼に救いがもたらされないと、いうなら。
私が彼の救いとなろう。
そうだ。私達は心を犠牲にしないために【必ず勝つ】のだ』
遊里は氷室に駆け寄った。
おもいっきり抱きついて、頬にキスをする。
「ほら、私は大丈夫でしょう？」
それでも、いつのまにか遊里の頬には雫がつたっていた。
「泣いて……ますよ」
「あなたの代わりに泣いてるのよ」
遊里は、精一杯の憎まれ口をたたいた。
「オレがこんなこといえた義理やないけど、まあ……幸せにな」
棟区 東は、二人に背を向けながら言った。
遊里は、そのさりげない一言が、とても嬉しかった…………
氷室は迷っていた。
クトゥルーのパワーポイントを、封印する最後の戦いは
予想を遥かに越えた、厳しい戦いになるだろう。
遊里を危険な前線に出したくない。
それは彼のエゴ。
術者としての遊里は、強力な支援兵力だ。
それは戦士の電卓。
そして、自分はここでは最強の戦力。
それはもっとも激しき戦いに、身を置くこと。
氷室の視界に、遊里の姿が入る。
「遊里」
「いや」
「……まだ何も言ってませんよ」
「言わなくてもわかるもの。何度言われたって、私はあなたに付いてゆく。
これは…私のわがままかもしれないけど、
それでも…私はこんなわがままを言う自分が大好きだから。
例えその事によって死んでしまったとしても、
私はその死を自分に許すわ。
私が聞きたいのは、あなたの本当の……」
遊里の言葉を塞いで、氷室が言う。
「そうですね。私と一緒に戦ってください！
遊里は、私が守りますから」
「はぃ！」
「けど、気軽に『死ぬ』なんて言わないでください。
遊里が許しても、私が許しませんよ」
遊里の頬に、朱が刺した。
【宝船】から、迎撃の為のデビルバスターが次々に出撃してゆく。
迎撃の指揮を取る氷室は、そのさなか遊里を呼び止めた。
「遊里、いまはこんな事しか出来ないけど」
と、言って、遊里の薬指に紅いリボンを結び付ける。
遊里はそれを、半ば茫然とながめていたが。
嬉しさと恥ずかしさの、混ざった表情が広がる。
「嬉しい、覚えていてくれたんだ……」
「勝って、生きて、結婚式……挙げましょうね」
「荒谷神社で、うん、約束ね……」
アズミ爺の特攻（生きてたけど）
オトヒメの封印
クトゥルーの、パワーポイントは閉ざされた。
大規模な悪魔に対して、寡兵のデビルバスターは勝利した。
「蛟さんっ！」
遊里が氷室におもいっきり抱きつく。
「笑ってるのか、泣いてるのか、わからないね」
溢れる歓喜の涙で、顔を濡らしながら、遊里は笑った。
「ええ、そうですね……」
氷室が短く答える。
「終わり…ましたね」
悪魔との戦闘、オトヒメの護衛、アズミ爺との戦い
人質にとられた遊里を奪いかえす時に、受けたナイフ
魔人と化した身でも、受けた傷は浅くはなかった。
遊里の抱擁に、軋む痛みを堪えながら言った。
「けど、これからが、始まりです」
遊里が大きくうなずいた。
荒谷神社
今ここで、ささやかながら幸せな二人が、結婚式を挙げようとしていた。
邪神達に対して共に戦い。傷つき。勝利した。
新郎は、勝利を確実なものとする為に、人を捨てた。
新郎が奉るは、唯一神である主
新婦が奉るは、国を守る猛き鬼神
しかし、二人にはそんな事は関係なかった。
二人の心は通じ合ったのだから。
そう、神は何も禁止していない。
「遊里、これからの時間をあなたと共にし、あなたを守ることを私は神でもなく、他の何者でもなく、私自身に誓います」
氷室が誓いの言葉を伝える。
「蛟さん、私ね、私ね………………」
遊里は胸が詰まって、もう泣き出しそうになっていた。
氷室が、無理しなくていいよと微笑みかける。
共に戦ったデビルバスターや、御影さんなどを始めとする神々達
この婚礼に出席してくれた人々が、祝福の言葉を投げかける。
もっとも、男性の声はやっかみが大半だか。
そして、二次会の会場、夏木 静樹の店『ヒース』に移動する。
自転車に花嫁姿で、二人乗りして走ってゆく。
遊里の手から、お手製の白いチューリップのブーケが放られる。
誰かが受け取ったようだ。
「遊里……その、幸せですか？」
「蛟さんは？」
「……………幸せですよ」
「遊里はね、宇宙一幸せだよっ☆」
「そうですか☆」
自転車は、スピードを上げた。
ＥＤ 川本 真琴『1/2』
それから……
遊里が、教会の庭先を竹ぼうきで掃いている。
氷室の教会は『天使のいる教会』と噂が広がり。
説教を聴きにくる、人もいる。
氷室の説教は、普通の神父と違い、すべての神を認めたうえで人間を救うのは、人間だと説いていた。
むろんデビルバスターでもある氷室は、教会の主流から外れていた。
それでもいい、氷室は自分の行なったことが、他人から見れば愚かで間違っていても。
自分で決めたその瞬間は、正しい選択だと思っているから。
だから、後悔はしていない。
そして、遊里も。
二人は、ときおりデビルバスターとして、悪魔退治をしたり。
旅に出て、地方に巣食う悪魔を排除しに出かけたりもした。
そして、遊里の本当の両親を探すことも……
「蛟さん」
氷室に遊里が、頬を朱に染めあげ。
もじもじしながら語りかける。
「蛟さん、あのね、遊里ね……」
遊里はそっと、お腹に手を置いた。
終わりは、一つの始まり……
【作者解説】
初めてプレイしたＰＢＭ「女神転生」での一連の流れをプレイ終了後に、書いてみたものです。
ＭｙＰＣ、氷室 蛟／ディアナ 最後に３身合体の神父、まいんさん、御鍵 遊里／ケレス 巫女さん♪
あと、Luigiさんの、夏木 静樹や、私がＰＢＭに引きこんだ友人のＰＣなどがいます。
はっきりいって、シーンのぶつぎりのため、リアを持っていなければ、わからんようなしろものですね（汗）
なお一部分は、まいんさんの書いた文章をそのまま、つかっています。
※このサイトの内容について無断転載を禁止します。