「ムンスパ」プラリア 作者：白拍子さん 掲載日：２００１．７．１２
最初で最後
某月某日
私の名は、エリザベト・テューダー
私達のアフリカでの旅も、終わろうとしている。
こうして記録をするのも、なかったかもしれない。
なぜならば今宵は、おそらく最初で最後のことを経験したからだ。
私は「風のイデア」に関して、おおいに興味を持っていた。
それが存在する精霊界、この物質の世界とは違う、異世界だ。
ココ・ココは、イデアと現界との繋がりを保つため、その異界へ旅立つが、私自身、それに先じて異界へ向かうことを考えた。
むろんそれは、誰にも知られてはいない。
妹のヴァニにも。
ヴァニは、ヴァニで、負との接触を求めて、湖での沐浴を繰り返している。
今夜もそれに出かけたようで、私の傍らにあつらえた寝床に、ヴァニの巨体はいない。
もしヴァニが、私の心の内を知ればどう行動するか……
それは手に取る様にわかる。
明日はココを送る宴を催す。
そう、今夜だけなのだ。
そして私は、イデアとの接点になっている、遺跡に歩んでいった……。
「姉様、散歩かのう？」
その途中、完全武装でゆくてをさえぎる、ヴァニがいた。
いや待っていた、というのが正しいであろう、まったくどうやら甘かったようだ、私の考えている事は、ヴァニにも推察できることを、失念していた。
「散歩…だな」
われながら、下手な嘘だとわかる。
「……………」「……………」
沈黙が降りる。
進もうとする者、それを阻む者。
それは、はっきりと理解していた。
ヴァニの表情は冷たい月のようだ、いつもの明るさは、微塵も感じさせない。そう、父様が怒っているときも、このようだったことを思い出す。
私もヴァニも、同時に動いた。
翼をもつ狼の姿をした合体ゴーレム「かろん」が、ヴァニにおどりかかる。
ヴァニはその牙と爪をさばきながら、私との距離を計っているのがわかる。
一気に襲いかかり、その大鎌で私を押さえこもうという、狙いであろう。
そしてわざと、かろんに隙をつくらせる。
どむっ！
神速の踏み込みで、かろんを振りきり、ヴァニが私に向かって来る。ひらめかせた大鎌が、私の動きを止めるべく振り下ろそうとしている。
「！？★」
ヴァニは私の背後から現れた「それ」が、鎌の刃を受け止めたのを見て、驚愕と唖然の混ざった表情を作っている。これほど心底、驚かせたのもひさしぶりに思い、軽く意地悪な笑みも浮かぼうというものだ。
ヴァニの前に存在する「それ」は、鏡に写したように、ヴァニにそっくりだった。そう、そう創ったのだ、あらたなゴーレム「ばにてぃ」を。
驚きから覚めぬまま、ばにてぃの大鎌の攻撃にさらされ、一瞬防戦一方になるヴァニ。その背後から、かろんから分離した、こうりんが襲いかかる、余裕が無くなった事をみはからって、同じく分離したるいじの背に乗り、走りぬける。
ふりきった、そうおもった。
まちがいだった。
るいじに乗った私の眼前に、相当な質量をもったものが、降ってきた。
るいじが急制動をかけたので、私もバランスを崩しかける。そして見たものは………。
眼前に転がるヴァニ。
驚きのあまり、硬直する。
しかしめぐる思考が気づく、別の可能性。そしてよりそちらの可能性が強い事に。ヴァニがばにてぃを、投げつけたということだ。
そして、行動に移るのが、遅れたこと。
背後からの衝撃に、対応することはできなかった。
私に馬乗りになり、拳を降り上げるヴァニ。
静かに、金と銀の瞳と、紅の瞳が見つめあう……
「姉様……びっくりするではないですか！」
「そうか？」
はんば声を荒げた、ヴァニの抗議に、私はさらりと答えた。
「殴らないのだな」
私の視線の先に、剣呑な拳がある。
「姉様こそ……本気で、姉様のゴーレムをかからせれば、わらわはもっと深刻な傷を負ってますわ」
「………そうだな」
おもわず、苦笑がもれる。
『判定負け……かな？』
胸の奥で、最初でそして最後であろう、姉妹喧嘩の判定をくだした。
ココ・ココは、異界に旅立った、供のものを連れて。
アフリカに残るもの、別の目的を持ち、新たな旅にでるもの。
ヴァニはアフリカに残るという。
彼女の王冠は、この地にあるのであろう。
そして、私はイングランドへ帰る。
この旅に大きな意味があったことを、記して。
「まずは……婿さがしかな？」
おもわず苦笑いを浮かべて、船上の人となる。それにしても…
はやく堅い大地を踏みたいものだ。
了
それから……
ヴァニティは、アフリカを力を求めて放浪し。
転移以前の遺跡から、コールドスリープされた、生きた男の幼児を見つけ出す。
「ふむ、そなたが立派に成長するまで、鍛え待つとするかのう。もっとも、わらわが、孕めるようになるまで、そのくらいの時間はかかるだろうからの」
「よい、男になるがよいの☆」
そしてある意味、アフリカの開発をさまたげる、集団の指導者として、ヴァニティ・クロムウェルの名は知られるようになり。
そしてその眷属に、志はうけつがれてゆく。
時が過ぎ、彼女の直系の孫の一人、ギルバートという女性でもあり、男性でもあるという、数奇な肉体をもった彼女が。伴侶と引き合わされ、未知の大陸へと旅立つが、それはまた別の物語。
エリザベトは、イングランドへ帰る途中、わざわざ南アメリカ、ブラジリアに寄港。その後、陸路で北アメリカまで横断。そこから大西洋を渡って、イングランドに帰還している。
南北アメリカ大陸にて、婿を探すといっていたが、時間がかかっても、できるだけ船に乗っていたくなかったのであろう。
いまだ、パンドラ戦役の混乱の静まらぬ地で、いくどとなく危険がせまるのを、その知性で切り抜けてゆくのだが。もっともその力となったのは、以外にも、その旅の途中遅まきながら、異能者として覚醒した彼女の下僕、ナサニエルだった。彼の助けなしでは、無事にイングランドの地を踏むことは、かなわなかったであろう。
そして婿となる人が、もっとも身近にいたということも………
時が過ぎ、彼女の孫にテューダー家初の男子が生まれる。
アリスと名づけられたそれは、子孫を残せぬ、半吸血鬼だった。
そして彼は、伴侶と引き合わされ、未知の大陸へと旅立つが、それはまた別の物語。
そして、新しい物語が……
【作者解説】
スパイラル・ムーンで、シャルとヴィーの双子の娘達が、アフリカを去る所を、まいんさんのＰＣ、エリザベトの日記という形でのプラリアです。
アフリカは平和でしたね…（笑）
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