「エタムン」プラリア 作者：白拍子さん 掲載日：２００１．７．１２
不完全さと、それを埋め合うのは、正しいのだろうか？
【ある、結婚のカタチ】
旦那様の名前は、アリス。
奥様の名前は、ギルバート。
二人は尋常ではない、環境で育ち。
祖母達の交わした、家の都合で引き合わされ。
恋も愛も、とりあえず置いておいて、結婚しました。
さらに止めを刺すように、旦那様はヴァンパイアハーフで、奥様は半陰陽だったのです。
【アフリカから来た花嫁】
むせかえる血臭……。
大鎌が振るわれるたびに、惨殺というより解体という表現が似合うように、兵士達は刈られてゆく。
異能者に対して、通常の人間が立ち向かっても、結果は知れている。
それに対して無慈悲に、死の大鎌を振う……。
そして静寂……
「…………ふぅ」
吐息を漏らす、この静寂が彼は好きだった。自分自身の存在の意義を確認できる時間が……。血を残せぬ身が、彼の「家」になしえること。闘うことが全てと、死線に向かい合うことに……。
「早急に帰還せよ、だと？」
確認というより、疑問を含んだ声が出る。イングランドでの活動が一段落し、次ぎなる工作の準備をする段階なので、意外でもないのだが、極力「家族」との接触を避けていたアリス、そして無関心に近い母や祖母からの、強固な命令といってよい召還だった。
「そうか…妹が帰って来た、ということか……」
旅に出ていたアリスの妹、ギネヴィアが帰還したとアリスは予想した。
テューダー家恒例の武者修業の旅といえば聞えがよいが、実のところ婿さがしの意味あいが濃く、母も祖母も、それによって強き伴侶を見い出し結ばれている。どうやら新たな家族と顔を合わせるために、家に帰らねばならないことを、アリスは自覚した。
事後をまかせ、家に帰還すると。予想どうり妹は伴侶を伴って、旅から帰還していた。なかなかの伊達者で胆力もある戦士と、力量をみとった。
それに、弱い血を入れる気質は、テューダーにはない。ギネヴィアも旅先で彼とかなりの死線をくぐってきたようだ。
「おひさしぶりですわ、兄様」
「そうだな…」
そっけない、といってもいい挨拶が交わされた。
血を残せるモノと、残せないモノ……
次期頭首、そしてその次の頭首を生むモノ……
それだけかもしれないが、それはアリスから、必要以上に情を薄く表現する、一端となりえた。
「結婚……ですか？」
自分が奇妙な表情をしていることを、アリスは自覚していた。今後の活動を、エンブリア大陸での、新魔王派の組織「ミレニアム」への協力者として、アリスが派遣されることを、言い渡された。それに伴って、アフリカの分家、クロムウェル家からも、協力者を派遣するとのことだが、それと結婚することを聞かされたのだ。
「もう決めたことだ、それにそなたはテューダーの唯一の男子ではないか」
祖母の冷静な声が響く。
「先方は、我に問題があることを、承知しているのか？」
つい、疑問を出す声も、思わず荒くなる。
「承知のうえだ、それに……向こうにもいろいろと、な…」
祖母エリザベトが、珍しく口を濁らせるのに、強い不安をアリスは感じた。
『アフリカから…』
少し恐い考えになったようだ。
「まぁ！いい男じゃないっ！けっこうシブくて好みよ☆」
アリスは目の前にいる「花嫁」を、まじまじと見た。華やかというよりは派手。明るいというよりは野放図。背はやや低めながら、健康的な色気のある体のライン、周囲の空気を動かし、表情が豊かでころころ変わる。
そして仕草が、オーバーなくらい大げさだ。
ようするに、アリスには欠けた表現のしかたを「花嫁」はもっていた。
彼女の名は、ギルバート。
アフリカから来た、花嫁………
「それにしても……名前からして、てっきり男性が来るものと思っていたが……」
「そう、男でもある」
アリスの呟きに、エリザベトが応じる。
「御婆様、ごたわむれを……」
アリスは最初、エリザベトが発した結婚の話を、冗談だとおもっていた。そして今の発言も…だが、冗談ではなかった。
「ギルバートは、女の体をもっている、そして男の体もな……」
「早い話が、半陰陽、ふたなりだ」
静かにエリザベトは語った。
きゃっ！と照れ隠しのように、手で顔を覆うギルバート。
「あたしだって、あなたの名前聞いたときに、どんな可愛い女の子かって、いろいろ想像しちゃったのよ。かっこいい男として、かわいがってあげよーって、旅にでる前にいろいろ考えちゃったんだから。そのままで、いいって言われたとき、結婚って話は冗談だったのかしら？て疑ったのよ。」
「そうか……期待にそえなくて、残念だな……」
ギルバートの止まらない舌が、やっと一息ついたところで、皮肉をこめてアリスが返した。
「そうね……これから貴方の事、ハニーって呼ぶわ！ いいわよね、ハニー！あたしのことはダーリンって呼んでね☆」
これまでのあまりにもの展開の変化と意外さに、さすがに精神に亀裂が生じたようで、アリスは頭を抱えてうずくまった。
「だいじょうぶ？ハニー？」
背中からわきっと、へばりつくようにして、ギルバートはアリスの頭に腕をまわした。アリスの背中に押しつけられる、柔らかい感触がなぜか、ひどく現実的に迫ってくる「結婚」を意識させられていた………
【永遠と刹那】
『結婚か……』
そう、儀式にしかすぎない。
自らの血脈を後に残すことを、公表する儀式。
それゆえに、その瞬間を華やかに彩る。
しかし、その血を残すことのできないアリスには、滑稽な道化を行っているような気分にとらわれる。
もう一方の、ギルバートはどうかというと。
表面のはしゃぎようからは、なにも問題は見えないが。見せていないのかもしれない。
ミレニアムとしてこの大陸に渡り、この地で式を挙げる。
「家」から離れ、呪縛から解放された、とは思わない。結局は都合よく適材を適所にという事であろう。
白いドレスに身を包んだ花嫁が、眼前にある。
なぜか必死にそれを維持している、という奇妙な違和感が伝わる。
花婿の正装というには仰々しいその姿は、騎士というよりは剣闘士のようだ。静かに重く足を踏み出し、花嫁がその脇に続く。
決まりきった、誓約の交換。にはならなかった……
「おまえの、血も、肉も、全て我のモノだ……しかし、我の命は、おまえのモノだ……」
「あたしはあたしのものだった、でも…あなたがあたしのものになるというのなら、あたしをあげる」
しかしギルバートの瞳は、挑戦的に全てではない、と語っている。
指輪の交換…だが交わすのではなく……
アリスが自らの左の薬指を口元に運ぶ。ギルバートの白い手がそれを押さえる。そしてその手を柔らかい唇に導き…薬指を口に含み、嘗めとる…
そして、そのまま、顎に力を込め……アリスの薬指を、噛み千切った。
唇から溢れる鮮血が伝い、ドレスに紅い線を引いてゆく……
参列者に、気の弱い者が声を失い、あるいは叫び、卒倒する婦人もいる…
二人はそんな外の世界は、感じていない……
「これで、あなたは。あたしのものという事なのね」
血に染まった唇を拭おうともせず、嫣然と微笑む。
そして、血にまみれた唇でギルバートは深く深くアリスにくちづけた。
ブーケが放られる。
漆黒の薔薇のブーケ。
テューダーの象徴であり、呪のこもっていそうな不吉でそして華麗な…
誰が受け取るのだろうか？
ギルバートは確認しない、アリスは気にも止めない。
静かに歩む二人……
血塗れの半吸血鬼。血塗れの半陰陽。血塗れの…ふたり。
月だけが、見ていた。静かに………冷たく。
【おまけ、初夜】
一人で寝るには広いベッド……
公的な儀式を終えた二人が、身を寄せる………
しばらくの抱擁…
「ねえ…」
ギルバートが顔を上げて、真摯な瞳を向ける。
「お願いがあるの……」
甘えの入った、それでいて真剣な声。
「血を啜って………それから……………」
「きゃあ！きゃあ！ぷにぷにしてるぅっ！！」
ギルバートは、狼化したアリスの肉球を、好きなだけ触りまくった。
それはもう、それだけで一晩すごせそうに☆
【作者解説】
ミレニアムから、魔王レオンの魔将「剣」と「兜」になったアリス・テューダーと、ギルバート・テューダーの出会いというかなんというか…
結婚といっても、ほとんど強制みたいなものという設定ですし（汗）
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